JMU-CGTR について
センター長挨拶
JMU-CGTR(自治医科大学 遺伝子治療研究センター)
センター長 大森 司
近年、難治性疾患に対する新しい薬剤モダリティとして遺伝子治療が注目されています。国内においても、2018年のB細胞性造血器悪性腫瘍にたいするCAR-T療法の承認を皮切りに、2020年には脊髄性筋萎縮症(SMA)に対するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、2023年には目の先天性疾患に対するAAVベクター遺伝子治療薬が承認されました。海外においては、更に血友病や筋ジストロフィーなど、複数の遺伝子治療薬が承認されています。また、2023年末にはCRISPR-Cas9を利用した鎌状赤血球症に対するゲノム編集治療薬もFDA、英国で承認されました。遺伝子治療は基礎研究から実用化・商業化のフェーズにはいったとも言えます。
自治医科大学は、これまでにAAVベクターやCAR−T療法、ゲノム編集の基礎研究から、パーキンソン病(村松 慎一 教授ら)、AADC欠損症(山形 教授ら)、CAR-T療法(小澤 教授ら)、などの遺伝子治療の臨床研究・医師主導治験を行ってきた実績があります。自治医科大学遺伝子治療研究センターは単科大学としての機動性の良さを活かして、遺伝子治療に対する基礎研究から臨床応用までシームレスな橋渡し研究を行います。遺伝子治療やゲノム編集などに興味のある方は是非、一緒に研究を進めてみませんか?
連絡をお待ちしております。
CGTRの歴史
遺伝子治療センター(CGTR: Center for Gene Therapy Reseach)は、自治医科大学(JMU: JichiMedical University)の基礎から臨床にいたる各部署に所属している遺伝子治療研究者を組織横断的に結集して、平成30年10月に設置されました。本学のゲノム編集技術を含む遺伝子治療の開発研究として、遺伝子疾患から癌などの難治性疾患をカバーし、基礎から臨床応用に至る橋渡し研究の加速化を図り、我が国における遺伝子治療開発研究をリードしていくことを目的としています。
自治医科大学の遺伝子治療に関するnatureの記事はこちら
遺伝子治療とは
遺伝子とは?
生き物の体はたくさんの「細胞」でできています。遺伝子は、体中の一つ一つの細胞の中にある「生命の設計図」です。精卵からヒトの体ができる過程では、筋肉や骨、脳や神経、心臓や血管、胃や腸など、すべての臓器が遺伝子の情報をもとに作られます。また、体を動かす、神経の信号を伝える、傷を修復する、病原菌を退治するなど、生命活動に関わるありとあらゆる物質が遺伝子の情報が読み取られ作り出されています。遺伝子は「DNA」と呼ばれる長いひも状の構造に並んでいて、それが折りたたまれて「染色体」となり、「核」の中に存在します。ヒトでは約23,000個の遺伝子があることがわかっています。遺伝子とはDNA配列の一部(領域)に存在するタンパク質の設計図の部分を指します。体の中には様々な細胞があり、基本的に、すべての細胞の中には同じ遺伝子のセットが入っていますが、すべての遺伝子がいつも働いているわけではありません。必要な時に必要な場所で、必要な物質を作る遺伝子だけが働き、他の遺伝子は休んでいます。
遺伝子からタンパク質ができるまで
遺伝子の情報をもとに作られる物質はタンパク質です。遺伝子が含まれているDNAは、4種類の「塩基」と呼ばれる暗号のような物質が繋がってできています。4種類の塩基は、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)です。このたった4種類の塩基が一列に並び、その暗号の組み合わせで、どんなタンパク質を作るかが決まります。DNAは、二本の鎖がペアになっています。タンパク質を作る時には、鎖のペアが離れ、遺伝子をコピーするようにメッセンジャーRNAが作られます。この工程を転写と呼びます。遺伝子の情報がコピーされたメッセンジャーRNAは、核の外のタンパク質の製造工場であるリボソームに運ばれます。リボソームでは、メッセンジャーRNAの配列に従って、タンパク質のもとになる20種類のアミノ酸を一つずつ並べていきます。この工程を翻訳と呼びます。翻訳が最後まで進むと、数珠つなぎのアミノ酸が立体構造を形成し、遺伝子由来のタンパク質が完成します。こうしてそれぞれの遺伝子が持つ塩基配列の情報により、形も大きさも役割も全く違った様々なタンパク質が作られます。ほとんどの場合は正常なタンパク質が作られますが、遺伝子の異常で正常なタンパクが作られなくなったり、異常なタンパク質が出来てしまい、それらが生まれつきの病気を引き起こすことがあります。
遺伝子治療とはどんな治療?
遺伝子の働きを利用した新しい治療法として、遺伝子治療が進歩しています。現在、主に行われている遺伝子治療は、体の中で不具合のある遺伝子自体を治す治療ではなく、体の外から細胞に遺伝子(DNA)を届け、病気を治すために役立つタンパク質を作らせる治療法です。つまり、遺伝子“を”治療するのではなく、遺伝子“で”治療する方法と言えます。
遺伝子治療の方法は2種類あります。その一つは、目的の遺伝子を持つベクターそのものを、注射などで体内に直接投与する方法です。in vivo遺伝子治療と呼ばれます。投与されたベクターは、目的の臓器の細胞内に侵入して、核内に遺伝子を届け、もともと持っている遺伝子と同じ仕組みで目的のタンパク質を作ります。もう一つは、目的の遺伝子をあらかじめ体外で導入した細胞を投与する方法です。こちらはex vivo遺伝子治療と呼ばれます。まず、体内の細胞を取り出し、ベクターを使ってそれらの細胞に目的の遺伝子を組み込みます。この遺伝子由来のタンパク質が作られた細胞を薬と同じように投与します。
遺伝子治療とベクター
遺伝子治療で、細胞に遺伝子(DNA)を届けるには、主にウイルスの細胞に入り込む力を利用することが多いです。ウイルスは人の細胞に入り込んで増殖し、病気を引き起こす悪者としての側面がよく知られていますが、遺伝子治療に使うウイルスは、病原性や増殖にかかわる遺伝子を取り除いた外側の殻に、治療に役立つタンパク質の遺伝子を入れたものです。ウイルスが細胞の中に入り込む力は残っていますので、それを利用して目的の遺伝子を細胞の中に届けるわけです。この場合の遺伝子の運び屋をベクターと呼びます。
遺伝子治療の実際
こうした遺伝子治療は、すでに様々な疾患で行われています。ベクターを直接投与するin vivo遺伝子治療は、主にアデノ随伴ウイルス(AAV)という種類のウイルスをベクターとして、目の病気や脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病など神経の病気、肝臓に原因のある血友病など先天性の病気に対して使われはじめています。一方、遺伝子を導入した細胞を投与するex vivo遺伝子治療は、白血病や悪性リンパ腫など血液のがんに対してCAR-T細胞療法が行われています。まず、がん免疫で中心的役割を果たすT細胞を患者自身から取り出して、がん細胞を認識して攻撃力を高める機能を持つCAR遺伝子を導入します。この細胞(CAR-T細胞)を患者さんに投与すると、標的のがん細胞を見つけ、死滅させるようにはたらきます。これら以外にも、様々な疾患に対する遺伝子治療が開発中であり、遺伝子治療の進歩により、これまで治療が難しかった病気に対する治療の選択肢が増えることが期待されています。
組織
研究者紹介
区分 | 氏名 | 役職 | 備考 |
---|---|---|---|
センター⻑ | ⼤森 司 | 教授 | 病態⽣化学部⾨ |
副センター⻑ | ⼩坂 仁 | 教授 | ⼩児科学講座 |
シニアアドバイザー | ⼩澤 敬也 | 客員教授 | 難治性疾患遺伝⼦細胞治療開発講座 |
教員(コアメンバー) | 久⽶ 晃啓 | 教授 | 臨床研究センター |
教員(コアメンバー) | 村松 慎⼀ | 教授 | オープンイノベーションセンター (神経遺伝⼦治療部⾨) |
教員(コアメンバー) | 花園 豊 | 教授 | 再⽣医学研究部 |
教員 | 神⽥ 善伸 | 教授 | ⾎液学部⾨ |
教員 | 村松 ⼀洋 | 教授 | ⼩児科学講座 |
教員(コアメンバー) | ⽔上 浩明 | 学内教授 | 遺伝⼦治療研究部 |
教員 | ⼭形 崇倫 | 客員教授 | ⼩児科学講座 |
教員(コアメンバー) | ⼤嶺 謙 | 准教授 | ⾎液学部⾨ |
教員(コアメンバー) | ⿂崎 英毅 | 准教授 | 再⽣医学研究部 |
教員 | ⼩島 華林 | 准教授 | ⼩児科学講座 |
教員 | 中原 史雄 | 准教授 | 再⽣医学研究部 |
教員 | 口丸 高弘 | 准教授 | 循環病態・代謝学研究部 |
教員 | 嵯峨 泰 | 学内准教授 | 産科婦⼈科学講座 |
教員(コアメンバー) | 内堀 亮介 | 講師 | 難治性疾患遺伝⼦細胞治療開発講座 |
教員 | 早川 盛禎 | 講師 | 病態⽣化学部⾨ |
教員 | 神保 恵理⼦ | 講師 | ⼩児科学講座 |
教員 | 瀬原 吉英 | 講師 | 遺伝⼦治療研究部 |
教員 | 松本 歩 | 講師 | ⼈類遺伝学研究部 |
教員 | ⼤庭 賢⼆ | 講師 | 遺伝⼦治療研究部 |
教員 | 中村 幸恵 | 講師 | ⼩児科学講座 |
教員 | 柏倉 裕志 | 学内講師 | 病態⽣化学部⾨ |
教員 | ⼘部 匡司 | ⾮常勤講師 | 遺伝⼦治療研究部 |
海外アドバイザー | 平野 直⼈ | トロント⼤学 | |
海外アドバイザー | 中井 浩之 | オレゴン健康科学⼤学 |
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